ばいばい

さようなら

子どもが怖がらない工夫

うちの小児科には、発達障害を抱えたお子さんも良く来る。
発達障害は人によって症状の出方が違うけれど、多い症状の中に「初めてのことが苦手」ということがある。
うちの小児科はそういうことに理解がある先生。
発達障害の子どもが怖がらない様に、病院にはたくさんの工夫をしている。

例えば、病院の中では走ったり跳んだりすることは厳禁。
だけど、発達障害のこどもたちは「走りません」「跳びません」という言葉が苦手だったりする。
「走る」と「しません(してはいけない)」というふたつの言葉組み合わせたものの理解が難しいお子さんもいる。
だから、院内にある張り紙は「座りましょう」に統一してある。
まあ、子どもなんてどんなに言っても走る子どもは走るから、効果があるかどうか解らないけど、来るといつも騒ぐあの子が、いつかこの張り紙をみて座ってくれたらいいなーなんてことを良く考える。

でも、そういうことが実現すると本当に嬉しい。
例えば、何度「バイバイ」と言っても返事をしてくれなかった子どもがいた。
こちらを見ることすらしない子だった。
一年間無視されて、親御さんすら苦笑してたけど、しつこく声をかけていたら小さな声で言ってくれたのだ。

「・・・ばいばい」

って。
嬉しい。
たった一言、「ばいばい」だけだけど、これが本当に嬉しい。
相変わらず目をそらしたままだけど、「私は少しだけこの子の世界に入ることができたんだ」という気持ちになった。
その子のお母さんも、大喜びしてくれた。

私は、うちの病院にくるお子さんにはなるべく「ばいばい」と声をかける様にしている。
もちろん、お子さんの状態を見て、「声をかけない方がいいな」と思う時は何も言わない。
だけど、なるべく子どもたちに声をかけて、私のことを知って貰えるようにしている。
病院って、どんな子どもでも嫌がるはず。
この病院で働きだして解ったけれど、この病院の門をくぐるだけで精一杯の子どもだってたくさんいるのだ。
だからこそ、笑顔で子どもを迎えて、笑顔で送り出す。
そんなことを当たり前にしたいって思う。

子どもの特徴を把握する

ここに来る常連のお子さんは大体覚えた。
のどの診察が苦手なAちゃん。
診察室に入ることができなくて、待合室で診察を受けていたBちゃん。
絶対にミニカーを離さないCくん。
アニメのセリフを言うのが得意なDちゃん。
みんな、苦手なことも得意なことも違うけれど、それぞれいいところがあって、とても可愛い子どもたち。
みんな違う笑顔だけど、みーんな可愛い。
この笑顔を見ていると「みんな幸せになってほしい」と思わずにはいられない。

みんな、とっても可愛い。
この子達がひとつできることが増える度、私も嬉しい気持ちになるのだ。
みんな、私の子どもの様な気さえしてくる。
転職をして良かったと思うのはこんな時。
子どもが笑ってくれた時、こっちを見てニコニコしてくれた時。
こういうとき、私は「小児科にきて良かったな」って思います。
私の方が、子どもたちから元気をもらっているように思います。

この小児科はまだまだ小さいけれど、みんなに選んでもらえる病院に成長することができる様に、頑張っていきたいって、本当に思う。