転職のきっかけ(5)

そこから、ママさんとなんとなく話をした。
仕事は忙しかったけど、同僚も先輩も「子供が怪我をさせるわけにはいかない」という意識があった様で、途中で呼ばれることは無かった。

ポツリポツリとママさんは語りだす。
子供は一人っ子で、生まれた時は本当に嬉しかったこと。
0歳代、1歳代は子供の一緒にいることが何より幸せだったこと。
だけど、1歳後半に受けた検診で、地獄に突き落とされた様な気分になったこと・・・

「この子ね、一歳後半の検診で言葉が遅いって言われたの、それで専門の先生を紹介されて・・・はっきり言って、何がなんだか解らなかった・・・だって、普通の子供だと思って育ててきたから」

「だけど、その時気づいたの。
他の子は、親に話しかける時親の方を見て『あっち見て!』みたいに言うでしょ。
喋らなくても、親にいろんなこと訴えるでしょ。
だけど、この子にはそれが無かったの。
こっちを見て笑ったり、私のことを頼ったり、そういうのはあったけど、共感を求める様なことがなかった。
それに、言葉がぜんぜんでなかった。
他の子はパパとかママとか喋るのに、うちの子はぜんぜん言葉が出なくて・・・。
まだ1歳だからと思ってたけど、周囲の一歳児とうちの子はぜんぜん違ったの」

それからもママさんは話してくれた。
専門医を紹介してもらって、受診したら「発達障害だろう」といわれたこと。
その時は、ショックで泣き暮らしたということ・・・。

「ショックだった。
私はこの子を本当に愛していたけど、その時は愛せなかった。
なんで、なんで、どうして私の子供が障害児なのって毎日そればっかり。
子供を抱えてマンションの屋上から飛び降りようと思ったことだってある。
だけど、この子の顔みたらそんなことできなくて、殺すなんてできなくて、そして子のこと考えたら自分も死ぬなんてできなくて・・・。
そんな気持ちで、今まで来たの」

ママさんが、笑った。
だけどそれは、とても悲しそうな笑みに見えないこともない。

「この子のことは好きよ。
だけど、この子の障害は憎い。
障害を受け入れて、親が前を向かなきゃ駄目なんだろうけどね・・・この子を育ててると本当に疲れちゃって、この先本当に育てていけるか?ってことを考えるの」

独り言を言いながら、車で遊ぶ●●くんを見る。
●●くんは4才で、来年から幼稚園に通うそうだ。

「施設に勧められたから行かせるけど、この子本当にやっていけるかな」

「やれますよ」

反射的に私は言った。

「お友達たくさん作って、毎日泥だらけになって帰ってきます。
病院でそういうお子さんたくさん見ます。
毎日服を汚して大変だって。
●●くんだって絶対そうですよ、絶対に。
きっと楽しく通いますよ」

なぜ、そんなことを言ったのか解らない。
でも、私の言葉を聞いたママさんは笑ってくれた。
その顔を見て、私の中の何かが変わった様な気がしたんだ。

何か、今までこなしてきた「看護」の仕事にはなかった何かを、得た様な気がしたんだ。

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